2020.05.11
アレッサンドロ・マンゾーニ『いいなづけ〜17世記ミラーノの物語』(河出文庫、上 中下3巻)
■コロナ禍の読書
結婚を誓い合った田舎の若い男女(イタリア語でI promessi sposi)が苦難の末に結ばれるまでを当時の北イタリアの社会・文化などを背景に描いた大河歴史小説。ダンテの『神曲』と並んで、イタリアを代表する国民文学として知られ、大抵のイタリア人は一度は読んだことがあるといわれています。
今からちょうど10年前にお茶の水の三省堂書店本店で文庫本を3巻まとめて買いましたが、当時は数十ページを読んだだけで、正直あまり興味を持てず、そのまま積読状態でした。
しかし、今回のコロナ禍の中、ペスト(黒死病)が大流行した17世紀前半(1630〜1631年)のイタリア・ミラノの悲惨な状況がほぼ史実に基づいて描かれているということで、再びページをめくりました。
該当箇所のある下巻には、ペストの感染防止に向けた行政当局(「衛生局」と呼ばれます)の取り組みに対する民衆の無理解、さらには感染者急増で隔離施設が収容能力を超えてパンク状態になったり、当局が隔離などのための人手やカネの工面に困ったり、果てはペストに罹ったことを隠すためのデマの横行等々、今と重なる話が次々に展開され、一気に興味を覚えました。感染症をめぐる社会や人々の意識,行動は昔も今もそれほど変わっていないことに驚かされます。
マンゾーニの鋭い描写力もさることながら、定評のある平川祐弘氏の流麗な日本語訳も預かるところ大きいと思います。
この本、今般のコロナ危機下、ミラノの高校の校長先生が自宅待機の生徒に宛てた手紙で取り上げたことでも話題になりました。
かなりの長編ですが、ペストの話は下巻の第31章と第32章(約60ページ)に独立した話として載っていますので、そこだけでもかなり読み応えがあります。
ちなみに、コロナ禍で読者の要望があったのでしょうか、先ごろ重版されました。
統括研究主幹 市川 嘉一 (2020.5.11記)