2021.05.20

自動車のソフト化と交通社会 ― CASE革命にどう対応すべきなのか

The Automotive Revolution and Future of Mobility ― Perspective on C.A.S.E.

立飛総合研究所(TRI) 理事 事務局長兼統括研究主幹

市川 嘉一Kaichi ICHIKAWA

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■徳大寺氏の予言

かつて自動車評論家として名を馳せた故徳大寺有恒氏の昔の文章を最近、目にする機会があった。今から30年近く前に出された旧フィアット社の歴史に関する翻訳本(『フィアット–イタリアの奇蹟に挑んだ企業』、1993年早川書房刊)の巻末に解説文として寄せたものだが、失礼ながら、自動車の未来に対する同氏の洞察力の深さに驚かされた。
以下、いくつか印象に残った箇所を引用したい。

「自動車産業界はいま、経済的問題だけでなく、社会的な問題にも直面しています。それはエコロジーと省エネと安全という問題です。……将来的には、やっぱり電気自動車にむかうことになるでしょう。」

早くも、現在の電気自動車(EV)の到来を予言していたが、唸らされたのは次の箇所だ。
「そして最後は、自動車はいつまで個人所有でいられるだろうか。個人所有でなくなるときは、もう自動車が自動車でなくなるときですね。別の乗り物、別の呼び名で僕は呼んでもらいたい。……個人所有でなくなるということは、車のヒエラルキー、あるいは差異っていうものが重要でなくなる。車の差異が重要でなくなれば、商品としての魅力を完全に失う。これは、自動車ではなくなるときですね。あるいは、電力会社の電気みたいになるかもしれない。…」

■コロナ禍、脱炭素化求めEV化の流れ加速

コロナ禍の中、脱ガソリン車としてのEVを求める動きが急速に強まっている。新型コロナウイルスの発生の遠因とされる地球温暖化に歯止めをかけるには、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの削減が欠かせないとの考えから、ガソリン車からEVへの移行を急ごうとする機運が昨年(2020年)以降、世界の国・自治体レベルで広がっているのだ。まさにコロナ禍という流れの中での現象であり、パンデミック(世界的な流行)がなければ、起きなかった動きかもしれない。

新聞や雑誌などメディアでEVに関する記事を目にすることが多くなった。日本経済新聞は昨年(2020年)末から「脱ガソリン車 戦略と課題」というワッペンを付けた不定期連載記事を随時掲載している。その「ワッペン記事」の1つ、昨年(2020年)12月23日付け朝刊経済面のトップ記事「環境規制、欧米が急ピッチ」は、ヨーロッパで先行する規制面からの「脱・ガソリン車」の流れを手際よくまとめている。
同記事などによると、規制には2種類があり、1つはCO2の排出規制。EUは2021年から新車の乗用車が出すCO2を走行1km当たり130gから95gに抑える規制を本格的に導入する。基準を達成できなければ巨額の罰金がメーカーに科される。

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