2021.05.20
自動車のソフト化と交通社会 ― CASE革命にどう対応すべきなのか
The Automotive Revolution and Future of Mobility ― Perspective on C.A.S.E.
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■欧米でガソリン車販売禁止の動き広がる
もう1つの規制は販売禁止だ。EU自体はまだ禁止時期までは示していないが、国ベースでは一歩先を行く動きも始まっている。禁止時期で最も厳しそうなのはノルウェーで、25年までにすべての新車販売をEVなどCO2を排出しない「ゼロエミッション車」(ZEV)に限り、ガソリン車・ディーゼル車の販売を禁じる方針だ。
見逃せないのは、同国の2020年の乗用車の新車販売でEVの割合が54%と前年を12ポイント上回り、初めて半数を超えたことだ(2021年1月6日付け日本経済新聞朝刊総合面)。EVの税金を抑えていることや、EV専業世界最大手の米テスラや独アウディなどメーカー各社が品ぞろえを増やしたことが寄与しているという。
英国も昨年(2020年)11月、温室効果ガスの排出削減に向けて、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止すると発表した。英国は当初、販売規制の目標時期を2040年に置いていたが、その後、2035年に変更。そして今回、さらに5年前倒しした(2020年11月18日付け日本経済新聞夕刊1面トップ記事)。
オランダも2030年までに、フランスは2040年までにガソリン車の新車販売を禁止する。今後10~20年の間に欧州の主要国で脱ガソリン車の流れが広がるといわれる。
米国でもトランプ政権下で取り組みが遅れていた連邦政府を尻目に州政府がEV導入の拡大策を主導。急先鋒のカリフォルニア州では州知事が2035年までに州内での販売をEVやプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の走行中にCO2を排出しないZEVに限定し、ガソリン車販売を禁止する知事令を発出。カナダで2番目に人口が多いケベック州も昨年(2020年)11月に温暖化ガスの削減に向けて2035年までにガソリン車の新車販売を禁じる方針を発表した。商用車と中古車は規制対象外というが、カリフォルニア州と同様、自動車メーカーなど関連業界にとっては厳しい内容だ。中国も2035年までに新車販売をEVなどの環境対応車に限定する方向で検討中といわれる。
■HV認める日本はガラパゴス化する?
こうした流れに乗り遅れまいと、日本政府も重い腰を上げ始めた。昨年(2020年)12月25日、2050年の温室効果ガス排出量の実質ゼロに向けた「グリーン成長戦略」を発表。その中で自動車を計14ある重点分野の1つと位置付けたうえで、2030年代半ばまでに軽自動車を含めた乗用車の新車販売でEVなど「電動車」を100%にする方針を打ち出した。日本のCO2排出量のうち、軽自動車を含む自動車全体は占める割合は16%に及ぶだけに、自動車の脱炭素化は欠かせないとの判断からだ。
ただ、ここで注意したいのは「電動車」という言葉だ。電動車の対象にはEVやPHV、FCVのほか、ガソリンエンジンとモーターを併用するハイブリッド車(HV)も含めている。走行中にCO2を出さないEVに比べ環境性能で劣るが、「トヨタ自動車などがHV技術で世界をリードしてきた経緯もあり、日本ではHVがエコカーの主流で、電動車として認めることは現時点では現実的な選択だ」と、読売新聞は政府によるグリーン成長戦略発表翌日の12月26日付け朝刊総合面で報じる一方で、「長期的には世界標準から外れて、『ガラパゴス化』するとの懸念もある」(同)との見方にも触れている。
日本版電動車のガラパゴス化の恐れを早くに指摘したのは毎日新聞だ。グリーン成長戦略発表前の12月4日付け朝刊総合面に「『脱ガソリン』政府号令、『脱HV』の土俵乗らず」の見出しを付けた深掘りした内容の記事を掲載した。
日本はHVとEVを電動車の両輪として位置づけ、HVを販売禁止対象にしなかったが、その「背景にあるのが、国内産業に影響力の大きいトヨタ自動車の存在だ」とし、トヨタは「電動車の主軸としてHVを位置付けて成長してきた経緯があり、経済産業省幹部は『EVの普及のみを推進するのはHVの技術がない国がやる手法だ。トヨタに席巻されたHV市場をEVで包囲して潰そうとしているのが実態』と強調している」と解説した。
ただ、「世界的にHV規制が進むことで海外に売れない車を作ることになりかねない」としたうえで、「気付いたら日本だけがHVを推すような『ガラパゴス状態』にならないよう気をつけなければいけない」という環境省幹部の発言を引用している。
■EVでもCO2排出が少なくない
これに対し、トヨタ自動車の豊田章男社長が、「EVへの拙速な移行」に懸念を示していることもいくつかのメディアに報じられている。同氏が会長を務める日本自動車工業会が昨年(2020年)12月17日にオンライン方式で開催した記者懇談会で、豊田会長は政府によるグリーン成長戦略の発表前に「脱ガソリン車」に関する各種メディアの報道が出されたことについて「ガソリン車さえなくせばいいのだ、といった(短絡的な)報道がなされている」「日本は電動化に遅れているとか異様な書かれ方をされているが、実際は違う」など、参加した記者たちに苦言を呈したという(「東洋経済オンライン」から引用)。
自動車の専門家からもメディアのEV報道に対し批判的な意見が上がっている。自動車ジャーナリストの清水和夫氏は「LCA(ライフ・サイクル・アセスメント=素材、製造、使用、廃棄のすべての段階を含む)ではハイブリッド車よりもCO2が多く排出されても、BEV(バッテリーEV)に正義があるがごとく報道されてきた。……もっと冷静にBEVのことを考えるべきだろう」(「CG(カーグラフィック)」誌2021年3月号)とメディア報道を安易だと指摘する1)。
同氏によると、LCAでバッテリー製造時の環境負荷は小さくなく、リチウムイオンバッテリーは素材と製造の段階でCO2の排出が少なくない。「大容量バッテリーは使用期間約12年で交換すると、CO2が一気に増加する。つまり、テスラや欧州ブランドのBEVは大容量バッテリーを搭載するので、決して環境に優しいとはいえない。現在のBEVは、規制上のインセンティブと付加価値で売れているのだ」と手厳しい。