2021.05.20
自動車のソフト化と交通社会 ― CASE革命にどう対応すべきなのか
The Automotive Revolution and Future of Mobility ― Perspective on C.A.S.E.
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■100年に一度の大変革迎える自動車産業
温室効果ガスの削減と絡んでHVの扱いが今後どうなるかは別として、確かなことは、自動車の電動化の動きが今後世界的に進むことはあっても、後退することはなさそうだということだ。より正確に言えば、電動化をその1つとする「CASE革命」と呼ばれる自動車のデジタル化を促す動きが世界的に大きな潮流になりつつあるからだ。
CASEとは「C=Connected(コネクティッド=ネットワークに常時接続したつながるクルマ)」「A=Autonomous(自動運転)」「S(Shared&Service(シェアリング・サービス)」「E=Electric(電動化)」の頭文字を取った造語だ。この4つの言葉はそれぞれ自動車産業における4つの重大トレンドといわれる。自動車産業の動向をウオッチし続けるベテラン証券アナリストの中西孝樹氏は近書『自動車 新常態(ニューノーマル)』(2020年、日本経済新聞出版刊)の中で、このCASEというトレンドによって、「自動車産業は100年に一度の大きな変革に直面している」と強調している。
さらに、中西氏はこのクルマのデジタル化の動きはコロナ後も部品メーカーや自動車ディーラーを含むすその広い自動車関連業界を巻き込む形で加速すると指摘。そのプロセスの中で「クルマの価値はハードウェアからソフトウェアへと急速に移行することになる」(同書)と予測する。
実際、昨年(2020年)12月のロイター通信の報道以来、アップルがEV市場に参入するとの観測報道が流れている。朝日新聞は今年(2021年)2月8日付け夕刊1面に「EV参入? アップル狂想曲」という見出しのトップ記事を掲載。時価総額(約2.3兆ドル)で世界最大の企業の参入観測は市場や自動車業界を揺さぶっていると報道。アップルがここ数年来、自動運転実験を続けてきたことは関係者の間で知られていたが、「12月にロイターが『アップルは画期的な電池を積んだ車』を開発中だと報道したことで、自動運転だけでなく、EVそのものを開発していることは市場に驚きをもって受け止められた」と結んでいる。
■交通社会全体はどう変わるか
EVが社会に浸透するには当然のように乗り越えるべき課題が多い。充電設備など関連インフラの整備や、1回の充電で走れる航続距離を延ばすための高性能電池の開発、さらにはガソリン車と比べ100万円程度高い車両価格を実質的に引き下げるための公的な購入補助を充実強化することなどだ。とりわけ日本の場合、充電インフラの整備が遅れており、EV普及の道のりは容易ではない。
クルマの動力源が内燃エンジンからバッテリーモーターに切り替わり、クルマ自体がモノというよりはソフト化すれば、徳大寺氏が予言したようにいずれ、いずれ個々人がクルマをいわば愛車として所有する存在ではなくなってしまうのだろうか。
その時、これまで自動車が主要な移動手段としての役割を担ってきた交通社会はどんな形になっていくのか。国民1人当たりの乗用車の所有台数は減るのか、それに伴い、鉄軌道やバスなど公共交通はどう推移していくのか、さらには歩行者・自転車のための空間は今よりは広がるのか……。進みつつある自動車の変貌ぶりを前に、交通社会全体としての展望も今からしっかりと描き始めることが必要だろう。