2021.05.20

自動車のソフト化と交通社会 ― CASE革命にどう対応すべきなのか

The Automotive Revolution and Future of Mobility ― Perspective on C.A.S.E.

立飛総合研究所(TRI) 理事 事務局長兼統括研究主幹

市川 嘉一Kaichi ICHIKAWA

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■高速道の渋滞時での自動運転にお墨付き

「CASE」革命のうち、2番目の頭文字「A」の自動運転をめぐる動きもこのところ、新聞・雑誌はじめ各メディアにしばしば登場するようになった。
自動運転には5段階のレベルがあることが知られるようになったが、これは、米国の標準化団体である米国自動車技術者協会(SAE)が定める5段階のレベルの定義を米国道路交通安全局(NHTSA)が2016年に採用した結果、日本を含む世界のデファクトスタンダードになったという(中西孝樹『CASE革命』)。
この各段階のレベルについても、メディアで報道されることが増えてきたが、その意味・内容は改めて示すと次のようなものだ。レベル1は「運転者支援」で、システムが前後(走行・停止)、左右(ハンドル操作)のいずれかを操作できること。レベル2は「部分的自動運転」と呼ばれ、システムが前後(同)と左右(同)の両方の操作を行う。あくまでも運転支援であり、高速道路などで手放し運転ができるとはいえ、ドライバーが運転に責任を負う。

これに対し、レベル3になると文字通り自動運転に近づいてくる。レベル3は「条件付き自動運転」と呼ばれ、高速道路での渋滞など一定の条件下ではシステムが前後左右ともドライバーに代わり操作する。
最近、ホンダがこのレベル3の機能を搭載した新型高級車(「レジェンド」)を発売(2021年3月5日)したことが話題になった。具体的には高速道路で渋滞に伴い時速30km以下で走行している時にシステムが作動しアクセルやブレーキなどの自動運転に切り替わる。時速50kmまでは運転者はハンドルから手を離し、前方から視線をそらしスマートフォンなどを見たりすることができるという。
日本ではレベル3の自動運転実現を目指し、昨年(2020年)4月の改正道路交通法などの施行で世界に先駆けてレベル3の車が公道を走るルールをつくり、それを受けてホンダは同年11月に国土交通省からレベル3対応車として世界で初めて認定を受けたのだ。

ドイツのメルセデス・ベンツやBMWも今年、レベル3の車を導入するという。ホンダをはじめ、スウェーデンのボルボ・カーなどでは「高度自動運転」と呼ばれるレベル4を目指している。レベル4以上は運転操作、周辺監視をすべてシステムが行い、ドライバーの監視も不要になる。事故の責任もシステムに帰属する。

■小さな町で小型自動運転バスが定常運行

こうした自動運転のレベル4を目指す動きが公共交通の世界でも広がり出している。
その中で話題になっているのが茨城県境町だ。茨城県南西部に位置する人口2万5000人のこの町で昨年(2020年 )1 1月末にソフトバンクの子会社、BOLDLY(ボードリー、東京・千代田)と共同で、国内自治体では初となる公道での自動運転バスの定常運行が始まった。
なぜ、こんな小さな町で自動運転のバスが走っているのか。本当に安全に走っているのか。新型コロナウイルス対策として事前予約が必要だが、地元住民だけでなく、だれもが乗れるということなので、今年1月末、朝早く現地に出かけた。

自動運転による小型電気バスが定常運行されている茨城県境町=筆者撮影

運行区間は利根川河畔にある町の観光拠点と、多目的ホールなどを備えた公共施設を結ぶ片道2.5km。車両はフランスのNAVYA(ナビヤ)社製の自動運転による小型電気バス(車両名は「NAVYA ARMA」)で、町は5年間のリースで約5億2000万円を投じ計3両を導入した。ボードリーが実際の運行管理一切を請け負っている。運賃は無料だ。

境町には東武動物公園駅(埼玉県宮代町)やJR古河駅(茨城県古河市)と結ぶ広域路線バスは走っているが、鉄道駅はない。江戸時代には利根川随一の河岸の町として栄えていたというが、現在はいわゆる公共交通過疎地といったところだ。多くの自治体で見かける町内を巡るコミュニティバスもない。
運行は1日計8便(4往復)。車両は全地球測位システム(GPS)とセンサーなどで位置を確認、障害物を感知して走る。自動運転レベルは、前後方向と左右方向の両方の操作が自動で行われる「レベル2」だ。
乗車人員は11人だが、コロナ対策で約半数の利用に制限されている。さらに、この11人のうち2人分にはボードリーからオペレーターと保安要員の計2人が乗り込んでいる。

実際に乗って感じたのは、まず思った以上に乗り心地は良いということだ。町はこの自動運転バスを「横に動くエレベーター」に例えるが、時速18kmでゆっくり、滑らかに進む。走行中、ほとんどシステムが運行する自動運転だったが、後続する車に道を譲るため、道路沿いにあるコンビニエンスストアの敷地内にいったん車を寄せる時にオペレーターがゲーム用のコントローラーを操作し、手動運転していた。
オペレーター役を務めていたボードリーの佐治友基社長は「ゆっくりと走るだけに、時に道路渋滞を招くなど色々と問題は出てくるが、地元の住民や沿道の店舗などの理解があるから、運行に大きな支障はない。自動運転には住民らの理解が欠かせない」とした上で、「自動運転バスは日本では始まったばかりで、具体的な運行方法はこれから。うちが先例をつくっていきたい」と意欲的だ。

境町のスタンスも明確だ。鉄道駅がない中、住民の高齢化に対応するために公共交通としてのバスの充実強化が必要との考えは他の多くの自治体と変わらないが、自動運転バスに将来の町の公共交通を託し、近い将来、路線網を広げる考えだ。バス運転手も高齢化する一方で、運転手予備軍である若者の大型2種免許を取得する若者が少なくなっており、今後はバスの運転手は増えることは期待できない、というのが自動運転バスを推進する大きな理由になっている。

走行ルートが表示される車内設置の端末をチェックするオペレーター役の佐治友基・ボードリー社長=筆者撮影

ボードリーは地方都市のほか、大都市での小型自動運転バスの本格導入を目指している。3月9日から約1週間、東京・丸の内仲通り(約600m)でも運行された。一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会(「大丸有協議会」)との共同事業で、大丸有地区におけるスマートシティ・プロジェクトの1つとして実証実験が行われた。

使われた車両は境町を同じナビヤ社製の9人乗り小型電気バス。ここもオペレーターと保安要員が乗客とは別に乗り込んだ。
実験期間中、仲通りは午前11時から午後3時(土日祝日は午後5時)まで道路交通法に基づく歩行者用道路として、車両の通行が禁止されている。そのいわゆる歩行者天国の時間帯に丸の内ビル・丸の内パークビル間の350mを平日は5往復、土日は8往復走らせた。
時速は6kmと境町よりも低スピード。実験日の初日に試乗した観光関連の企業に勤める48歳の女性は下車後、「思っていた以上にスムーズに動き出したり停まったりした。ただ、自動運転と言ってもオペレーターらがいたので安心できた」と感想を語った。

境町と同じ車両を使い、約1週間かけて運行実験が行われた東京・丸の内地区=筆者撮影

■大型の路線バスでも実験

大型の路線バスにも自動運転車が登場した。西武バスが、自動運転の社会実装を目指した研究開発に取り組む群馬大学、同大発ベンチャーの日本モビリティ(群馬県前橋市)と共同で、今年(2021年)2月下旬から3月初旬までの計7日間、埼玉県飯能市の郊外住宅地で運行した。
大型の路線バス車両を使った自動運転の実験は国内で初めてということなので、こちらも試乗しに現地を訪れた。
運行したのは、通常の路線バスが走っている西武鉄道飯能駅南口と美杉台ニュータウンを結ぶ路線(片道2.5km)。途中のバス停(6カ所)にも乗降客がいなくても停車した。実験ルートとしてここの路線を選んだのは、バス営業所が終点(美杉台ニュータウン)に近いうえに直線が多く、歩車分離が徹底されているためだという。

埼玉県飯能市の郊外住宅地では西武バスが自動運転の路線バスの運行実験を行った=筆者撮影

境町などと同じく、自動運転レベルは「部分的自動運転」と呼ばれるレベル2。使われた車両は通常の路線バス車両だが、車体の各所に取り付けられたレーザーセンサーや全方位カメラ、GPS受像機などで周囲を検知しながら、通常よりも遅い時速20~30km程度のスピードで走った。運転手はいたものの、運行中はほぼハンドルから手を離したままで、システムが操作したが、交差点などでは運転手による手動運転に切り替わった。通常運転では所要時間は8分であるのに対し、乗車した自動運転のバスでは倍の16分かかったものの、終始スムーズな運転だった。
西武バスも将来の乗務員不足対策としてレベル4の実現を目指しており、今後、実験を繰り返し、沿線住民の理解を得ていくという。

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