2021.05.20

自動車のソフト化と交通社会 ― CASE革命にどう対応すべきなのか

The Automotive Revolution and Future of Mobility ― Perspective on C.A.S.E.

立飛総合研究所(TRI) 理事 事務局長兼統括研究主幹

市川 嘉一Kaichi ICHIKAWA

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■レベル4実現のカギは社会受容性の醸成

レベル4は果たして実現するのだろうか。中西孝樹氏は先の著書(『CASE革命』)の中で次のように言っている。
「AIと高度なシステムが関与する自動運転技術は、ヒューマンエラーが起こしてきた事故を削減することは間違いないだろう。ところが今度は、従来は起きなかったシステムが主導権を持つことで生じる事故が生まれるリスクを考えなければならない。……システムが関与したために起こる事故がどのようなものか、どれくらいの頻度で起こるのか、我々はまだ知らないのである。機械が人を死に至らしめることに社会の許容力がどれほどあるのか、その合意はできていない」2)
「絶対に安全で事故を起こさないレベル4のクルマをつくることは現段階の技術では非常に困難だ」というのが中西氏の基本的な認識だ。システム自体が起こすエラーもあり得る。それに社会が安全性の定義や倫理、賠償責任など広範囲な問題にどう対応していくかどうかに、レベル4の行方がかかっているというのだ。

トヨタ自動車は今年(2021年)2月、静岡県裾野市にある旧東富士工場跡地に東京ドーム約15個分の規模の実験都市「ウーブン・シティ」の建設に着手した。自動運転などの社会実装を目指した「未完の」スマートシティだ。トヨタが開発する自動運転の大型電気自動車「eパレット」など自動運転専用、歩行者専用、歩行者とパーソナルモビリティ共存の3つの道を網の目のように整備。当初、360人程度が住み、将来は2000人以上の住民が暮らすまちをつくるという。
自動運転を普及させるには、自動運転の車が走行する道や街から創出しなければならないという問題意識がある。トヨタの実験都市の試みもまさに社会受容性の醸成を目指すものだ。

新交通システムの「ゆりかもめ」など無人の鉄軌道システムは世界的に増えている。だが、バスを含め車が走る道路空間にそれと同じ程度の安全性を担保できるだろうか。車道に接する形で歩道があり、場合によっては自転車も車道内を走り、安全面のリスクは高い。
公共交通を含め、自動運転車の時代が将来、本当に訪れるのか。それには技術だけではなく、受け入れる側の地域や社会も安全への意識を含め変わらなければならないわけだ。最も重要な安全面ではヒューマンエラーと同様に自動車という機械が冒すエラー(=機械エラー)についても一定程度、やむを得ないとして容認できるのか、ということである。果たして、そうしたプロセスはスムーズに行くのか。自動運転を本気になって取り組むのならば、そのことを問うときが早晩やってくるだろう。

*本稿は一般財団法人交通経済研究所発行の月刊専門誌『運輸と経済』に筆者(市川)が連載中のコラム「交通時評」の第13回記事「自動車のソフト化と交通社会」(2021年3月号掲載)と、第14回記事「自動運転時代は本当に来るのか」(同4月号掲載)をもとに加筆してまとめた。

1) LCAはLife Cycle Assesment(ライフ・サイクル・アセスメント)の略称で、製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取―原料生産―製品生産―輸送・販売・消費―廃棄・リサイクル)またはその特定段階における環境負荷を定量的に評価する手法を指す。EVは走行時にCO2を排出しないが、製造工程全体での排出量はガソリン車の2倍を超える。動力源の電池をつくるだけでエンジン製作と比べ大量(4~5倍)のCO2を出す。欧州委員会(EU)は2024年7月から、EVなどの電池の生産について環境規制を課すため、製造から廃棄までのCO2排出量の報告を義務付け、27年7月には排出上限を設ける。ただ、EVは製造時の排出量削減だけでなく、充電する電源が再生エネルギーなどクリーンであることも重要なポイント。日本のように化石燃料を燃やす「火力発電に依存した現状のままでは、EVを大量導入してもCO2排出量はほとんど減らず、増加する可能性」(2021年4月11日付け日本経済新聞朝刊サイエンス面)もあるという。

2) 実際に、「オートパイロット」(自動操縦)と銘打った半自動運転機能を売り物にするEV専業最大手テスラの高級車で2017年以降、運転中の事故が続発している。今年(2021年)4月17日も米テキサス州ヒューストン郊外で同社の高級セダン「モデルS」がカーブを曲がり切れずに車線から外れ道路脇の木に衝突して炎上、助手席と後部座席の男性2人が死亡する事故があった。運転席には誰も座っていなかったことから、ハンドルやブレーキなどを自動制御する半自動運転システムを使って走行していた可能性があるという(4月21日付け産経新聞朝刊)。ただ、モデルSの実態は「運転者支援」レベルで、ドライバーが常時監視し、運転結果に責任を持たなければならない車だ(中西孝樹『CASE革命』)

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