2022.03.22
多様性と都市交通のルール作り ―近年における電動モビリティの台頭に寄せて
Diversity and Rules for Urban Transportation in a New Era of Mobility ―Considering Expansion of Introduction of New Electric Mobilities in Recent Years
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■慣れるまでに時間、対面指導の必要も
乗車後の感想だが、個人差や年齢による違いなどは当然あるものの、運転に慣れるには少なくとも30分程度はかかりそうだ。それでもいきなり車の往来が多い車道に出るには勇気が要る。私の場合、車は運転するが、原付きでもバイクを運転した経験はない。原付き以上のバイクを運転したことのある人は電動キックボードにもすぐに順応するだろうが、原付きバイクの運転未経験者が初めてキックボードに乗る場合には最低10分程度でも構わないから事業者側による対面指導があった方がよいのではと思った。いずれにしても、自転車に乗るのとは勝手が違う。どちらかと言えば20~30代までの若年層向けであり、高齢者ら向けに3輪・4輪の車両も今後開発するとのことだが、現在の2輪の車両では中高年にとって操作はそう簡単ではないと思う。
ループは2021年10月11日からは都心の千代田・中央両区でも、21日からは横浜市のみなとみらい21地区でも当面、2022年までの期間限定で電動キックボードの実証実験を始めている。
■警察庁が規制緩和へ
こうした実証実験の実施を促す背景にあったのが、日本国内でも欧米と同じように電動キックボードのシェアリングをビジネスにしようとする事業者の動きだ。ループやエックス、モビー・ライド、長谷川工業の実証実験実施の4社にバードと、同じく世界大手のLime(ライム)を加えた6社が足並みをそろえて、自己規制体制の構築や安全運転指導の基本方針策定などを目的に業界団体「マイクロモビリティ推進協議会」(会長:岡井大輝ループ社長)を2019年に立ち上げた。この協議会が2020年4月に自転車レーンを含めた公道において相当規模で走行できるよう、産業競争力強化法に基づく規制の特例措置を求める要望書を国に提出した。同時に、自転車レーンや自転車道のほか、歩道の中でも自転車の走行位置が明示された「自転車歩行者道」(いわゆる「自歩道」)での走行や、ヘルメットの着用義務の緩和、運転免許証の携行、ナンバープレートの設置を不要にすることなどを国家戦略特別区域法に基づく特例措置として求めた。
民間事業者は自民党政権にも働きかけ、これを受けて、自民党の議員連盟「モビリティと交通の新時代を創る議員の会」(「(通称MaaS議員連盟」)は「マイクロモビリティPT」(座長:山際大志郎衆議院議員)を設置。同PTは2020年6月、電動キックボードの欧米並みの普及に向けて、協議会の要望に沿った規制緩和に関する提言をまとめた。
この自民党の提言は関係省庁(警察庁、経済産業省、国土交通省)を動かした。経産省は産業競争力強化法に基づく新事業特例制度の対象に電動キックボードを加え、公道での走行実証実験につなげるとともに、道路交通法を所管する警察庁は法規制の緩和に向けて進み出した。
規制緩和を進める際の議論の場として、警察庁が設けたのが学識者らをメンバーに集めた検討会(正式名称は「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」)2)だった。2020年7月2日に第1回会合を開催。以降、2021年11月16日の最終会合まで計9回開催したが、その間の2021年4月15日開催の第7回目の会合で、多様な移動手段の新たな交通ルールの方向性を示した中間報告書をまとめている。
中間報告書は電動キックボードなど電動モビリティついて、最高速度に応じて3つのタイプに分類。「早歩きの速度」とされる時速6km程度以下は電動車椅子並みの大きさの「歩道通行車」、時速15km以下は普通自転車並みの大きさの「小型低速車」、時速15km以上は既存の原付き自転車とした。電動キックボードは時速15km以下なら車道のほか、自転車レーンや自転車道などを走れるようにすることを検討するとした(歩道通行は認めない)。シェアリング事業者からは利用拡大のため着用義務の緩和が求められているヘルメットや免許証の携帯は任意を含め検討するとした。逆に、最高速度が時速15kmを上回るならば、原付きバイクと同じく走行する場所は車道のみで、免許の携帯やヘルメット着用は義務付ける。