2022.03.22
多様性と都市交通のルール作り ―近年における電動モビリティの台頭に寄せて
Diversity and Rules for Urban Transportation in a New Era of Mobility ―Considering Expansion of Introduction of New Electric Mobilities in Recent Years
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■走行空間、自転車でも解決できないのに…
自転車レーンなど自転車の専用空間での電動キックボードの走行もそう簡単な話ではない。そもそも、日本では自転車の専用空間はまだまだ少ない。自転車が走ることができる通行場所の総設置距離数の7割以上は車道の路側帯寄りに自転車の通行位置を示す「矢羽根」形状の路面標示(道路交通法に基づかない法定外表示)がされているだけのいわゆる「車道混在」型である。自転車レーンや、柵など物理的な境界物を置くことで車道と隔てている自転車道など専用空間は一部にとどまる6)。そんな少ない自転車レーンなどに電動キックボード の通行を認めたら、今度は自転車と電動キックボードの両者か接触したり衝突したりする事故が増える恐れがある。
かといって、既に述べたように歩道を通行してもよいというものでもない。警察庁がインターネットと運転免許試験場来場者を対象に実施したアンケート調査(有効回答数はネット調査500件、来場者調査1,736件の計2,236件)によると、電動キックボードが歩道を通行してもよいと思うのかについて尋ねたところ、「よいと思う」は41%で、過半数の6割弱(59%)が「よいとは思わない」と回答した。
免許の有無による回答の違いもほとんどない(「よいとは思わない」と回答した免許保持者は58.8%、同回答の免許不保持者は59.8%)。「よいと思わない」理由では「歩道通行は危険だと思うから」が免許あり(89.6%)、免許なし(91.3%)ともに最も多かった。一方、同じ小型電動モビリティである「自動走行ロボット」の歩道通行については、「よいと思う」は66.3%と7割近くを占めた。
電動キックボードの利用拡大にルールが追い付いていないのは先行する欧米でも同じだ。警察庁が海外大使館に委託した調査によると、ヨーロッパ主要国では英国を除くフランス、ドイツ、イタリアの3カ国とも運転免許は不要だが、イタリアでは現在、国会で14歳から18歳までは原付免許を必要とする方向で審議が進んでいる。イタリアではこのほか、速度制限も自転車レーン・自転車道では12km(一車線道路は25km、歩行者エリアは6km)に設定、18歳以下に限定しているヘルメットの着用義務の対象を広げる案も審議されている。今までが野放しに近かったとも言える。
■潜在ニーズある電動3輪車や電動カート
筆者は電動キックボードのシェアリングを試乗したのに続き、2021年11月、トヨタ自動車が開発した立ち乗り式の電動3輪車(商品名は「C+walkT(シーウォークティー)」)にも乗る機会があった。この電動3輪車は将来的には歩道での走行が目指されているものの、まだ現行の道路交通法では認められていないが、期間限定で遊園地(「よみうりランド」=東京都稲城市、川崎市)内でアトラクションとして体験できる場が設けられていた7)。
速度が時速2~6km(5段階で切り替え可能)と低速。さらに、ほっそりとした縦長のボード上に左右の足を前後に離して置く電動キックボードに比べ、電動3輪車はボードの幅が45cmと広く、両足をしっかりとボードに左右に並べることができるため、運転中に身体がよろけそうになる心配はあまりなく、比較的安定して乗ることができた。
電動キックボードのシェアリングサービスの事業運営者の間でも「キックボードの普及には現行の2輪ではなく3輪もしくは4輪車の導入が有効」との意見が少なくない。今回の体験を通じてもとりわけ中高年層には3~4輪車タイプの方が向いていると実感した。
また、先ごろ、韓国メーカーが開発し販 売を始めた歩行支援型の1人乗り電動カート(=車椅子、商品名「i-walkerⅡ」)にも試乗した。全長1,195mm、重さは47kgとコンパクトな大きさで、折り畳めるため、車のトランクにも収納でき、外出先での持ち運びも容易。リチウムイオン電池の充電時間は5時間、連続走行距離は35kmに上る。
速度はトヨタの電動3輪車と同様、運転者が時速2kmから6kmの範囲内で設定できるが、こちらは現行の道路交通法上、歩行者扱いになっている。希望小売価格は40万円弱(消費税込み)とやや割高だが、高齢者の「運転免許返納後の新たなパートナー」と販売事業者は売り込む。本格的な高齢社会の時代に入った現在、確かに潜在的なニーズは小さくないだろう。