2022.03.22

多様性と都市交通のルール作り ―近年における電動モビリティの台頭に寄せて

Diversity and Rules for Urban Transportation in a New Era of Mobility ―Considering Expansion of Introduction of New Electric Mobilities in Recent Years

立飛総合研究所(TRI) 理事 事務局長兼統括研究主幹

市川 嘉一Kaichi ICHIKAWA

7 / 7ページ

■「20世紀の失敗を繰り返すな」

先の「都市計画」誌の別の特集対談記事(「ポスト・コロナ時代の都市交通計画のあり方」)における太田勝敏(東京大学名誉教授)の言葉も重い。「20世紀の都市交通政策は意図的な戦略ではなく、結果として自動車依存社会の許容・推進だった。その失敗を繰り返してはいけない」と発言。電動キックボードなど新種の乗り物の公道走行に触れて、「日夜新しい技術やサービスが開発されていることは技術革新のためには良いが、交通サービスを社会のシステムとして活用していくためには、ルールが必要」と多様な交通手段を想定した新たな都市交通デザインに対応した適切なルール作りと、ルール遵守を周知させる工夫の必要性を指摘している。

21世紀に入ってから既に20年超が経ったが、新たな多様性の波が押し寄せる都市交通をどうカジ取りしていくのか。今度こそ自発的な都市交通政策を打ち出せないようでは、都市交通はカオスへ向かいかねないだろう。

■自転車の辿った道を歩むのか

日本における自転車の歴史を紐解くと、社会での定着までにかなりの時間がかかったことが分かる。『自転車の文化史』(佐野裕二著、中央公論社刊)によると、日本に自転車が初めてお目見したのは、江戸時代末期の慶応年間、輸入された初めて前輪にペダルを付けた木製車輪の「ミショー」型といわれるが、それから1887(明治20)年ごろまでは「若者たちが乗り回す舶来の危険な玩具として、至って評判が悪かったようだ」。ちなみに、今でいうバイクシェアリングの原型である貸し自転車の日本で初めての営業は1877(明治10)年、横浜・元町において輸入自転車16台を使って始まったといわれる。

「チョンマゲ頭がまだ一般的で、両刀をたばさんだ武士が街灯を闊歩していたころ、その肩先をかすめて木製車輪の自転車が走り抜ければ、評判の良かろうはずはない。……乗り手はただ面白がって往来を乗り回すだけだから、大方の人びとから白い目で見られたろう(原文ママ)」(同書)という。明治13年ごろにつくられた「馬鹿の番付」の1つとして「自転車ニテ大怪我イタシ、釣り台ニ載セラレテ帰ル人」というくだりが出てくる。

電動キックボードなど新たな中低速の電動モビリティもかつての自転車の歩んだ道のように曲折は あるものの、最終的には市民の足として定着するのか。その動向をしばらく注視する必要があるだろ う。

(敬称略)

*本稿は一般社団法人交通経済研究所発行の月間専門誌『運輸と経済』に筆者(市川)が連載中のコラム「交通時評」の第21回記事「電動キックボード どう安全確保」(2021年11月号掲載)と、第23回記事「多様性と都市交通のルール作り」(2022年1月号)もとに加筆修正してまとめた。

1) 「築地ホテル館」は、慶応4(1868)年に築地居留地(現在の旧築地卸売市場)に完成した日本で最初のホテル「築地ホテル」周辺を描いた作品。制作年は特定されておらず、明治2(1869)年から明治4(1871)年の間といわれる。歌川芳虎は国芳の門人。天保から明治20年ごろにかけて開化絵(文明開化で移り変わる町の様子を描いた錦絵)など数多くの作品を描いた代表的な浮世絵師の1人で、乗合馬車や人力車、当時まだ珍しかった自転車など乗り物を好んで描いており、「東京日本橋繁栄之図」(明治3年)にも外国人らしき男性が3輪車に乗っている様子が描かれている。

2) 検討会の委員は学識者(交通計画1人、法律2人の計3人)、行政(茨城県つくば市長)、関係団体(身体障害者団体、自動車技術関連団体、自転車利用関連団体、PTA、物流団体)、コンサルタント(マッキンゼー&カンパニー)、自動車ジャーナリストの計11人で構成。座長は学識者の1人である久保田尚・埼玉大学大学院理工学研究科教授。事務局は警察庁交通局交通企画課

3) 最終報告書で示された主な内容は図表1を参照

4) 最終報告書に関して、新聞各紙は公表日の12月23日付け夕刊、翌日(12月24日)付け朝刊で大きく取り上げたが、「歩道通行の例外許可」について触れたのは日本経済新聞、産経新聞のほか共同通信が配信した東京新聞など主要紙・地方紙。日経は「『時速6キロ以下』に制御できる車両は歩道の通行も可能とする」とし、共同通信は「最高速度を6キロまでに制御し、制御していることが分かる表示をすれば歩道走行もできる」と報じた。なお、朝日、読売、毎日の全国紙3紙は「車道のほかに自転車レーン・自転車道も走行できる」(毎日新聞)という報道はあったが、歩道走行への言及はなかった。

5) BRJは2021年10月30日、実証実験として立川市内を皮切りに事業を開始。利用時間は毎日午前10時~午後10時までで、料金は実証実験期間中の特別料金として1分当たり10円(初乗り料金はなし)。サービスは現在(2022年3月現在)、同市を中心に東大和、国立、国分寺、武蔵村山、昭島の計6市で展開している。ポートの設置場所はすべて立飛ホールディングス(立川市)など契約を結んだ民間事業所所有の敷地内に設置。3月現在で約100カ所(約200基)あり、1日当たりの利用回数は平日、週末ともに約30回。ポートは約300m間隔と高密度配置を目指している。同社は当面、東京・多摩地域のほか、さいたま市、千葉市、千葉県柏市、流山市など他の首都圏郊外都市にもシェアリング事業を広げる計画だ。

6) 国交省道路局と警察庁交通局の調査によると、歩行者と自転車が分離した自転車通行空間は2018年3月末時点では1750kmだったが、翌年の2019年3月末には2260km、さらに2020年3月末には2930kmと増えている。ただ、整備形態を見ると、車道の路側帯寄りに自転車の通行位置を示す矢羽根形状の路面標示がされている「車道混在」型が2150kmと大半を占める。残りはいわゆる自転車専用空間で、道路上に青色などで色塗りされた帯状部分の普通自転車専用通行帯(自転車レーン)が540km、車道と柵などで隔てている自転車道が160km、郊外部などに多い自転車専用道路が80kmとなっている。さらに近年の特徴は車道混在型が占める割合が年々増えていることで、2018年には60%だったの が、2019年には68%、2020年には73%と7割台に達している。

7) よみうりランドが2021年11月1日~30日の期間限定で、「近未来体験」の新アトラクション(料金300円)として従来からあるゴーカード乗り場上に設けた。「シーウォークティー」はボードの前に2つの車輪、後ろに1輪が置かれ、全長70cm、幅45cm、高さ1m21cm。価格は34万1000円

1 2 3 4 5 6 7
PAGETOP