2022.12.08
「近場観光」人気は広がるのか ――国内でも増える「分散化ホテル」
“Micro Tourism” and the Potential Spread of “Albergo Diffuso” (Hotels Diffused in Villages) in Japan
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■過疎化した鉄道沿線で展開、2次交通も整備
鉄道会社など交通関連企業でもマイクロツーリズムに新たなビジネスの商機を見出そうとする動きが出てきている。
JR東日本は過疎化が進む東京・奥多摩地域での新たな滞在型観光やマイクロツーリズム創出を目指し、先ほどの「さとゆめ」と共同出資会社「沿線まるごと株式会社」(東京都奥多摩町)を21年12月に設立(代表:さとゆめ社長の嶋田俊平氏、資本金:7,500万円。出資比率:さとゆめ53.3%、JR東日本46.7%)。JR青梅線沿線の集落にある築100年超の古民家(空き家)をホテル客室やレストランに改修するとともに、地域の住民とともに接客・運営を行う沿線まるごとホテル」事業に取り組み始めている。
まず今年6月に無人駅の鳩ノ巣駅を改修し、地域の魅力や特産物などを紹介する観光拠点「沿線まるごとラボ」を開設した。地域関係の書籍を集めたライブラリー機能を備えているが、ここを拠点に会社が「沿線まるごとコンシェルジュ」として選んだ地域住民が主宰するワサビ収穫など各種体験型ツアーや、地域の課題解決に向けたワークショップなどを開催する。
23年からは沿線の奥多摩地域で古民家ホテルを順次開業、26年までに全8棟をオープンさせる。ラボはこれら古民家ホテルの宿泊客がチェックインするフロントとしても活用することを検討している。
奥多摩地域は山あいにあり、駅を降りてからも狭い道や急斜面が多いなどアクセスが課題のため、2次交通のサービス展開にも注力する。まずは実験段階として今年10月から12月までの約2か月間の予定で、EVバイク(電動三輪車スクーター)や電動アシスト自転車のレンタル事業もガイドツアー付きで始めた。
マイクロツーリズムの行き先はもともと山深いところが多いためか、利用交通手段はマイカーが群を抜いているが、密の回避が求められたコロナ禍でマイカー利用率はさらに高まっている。先の観光白書が示す旅行利用交通手段では21年のマイカー利用率は69.6%と19年比で約10ポイント上昇した(鉄道・モノレールは24.6%)。このように鉄道利用が低迷しているだけに、都心から鉄道一本で行ける奥多摩のように1次交通として鉄道の利便性が良いところでも、2次交通の整備はマイクロツーリズム発展にとって重要なポイントだろう。
■逆風なのか、追い風なのか
国による新型コロナウイルスの水際対策が10月11日に大幅に緩和された。これまで1日5万人としていた入国者数の上限を撤廃したほか、外国人観光客の個人旅行が解禁された。また同日、国内観光の促進策「全国旅行支援」も始まった。
こうしたコロナ前に戻そうとする状況は近場観光にとっては一見、逆風に見える。今後、コロナが収束し、海外旅行が自由に行けたり、国内旅行でも遠出の旅が再び広がったりすると、マイクロツーリズは一時的なブームで終わる可能性はないのか。
「歩き方」編集部の斉藤さんはこんなことを言っていた。
「海外旅行や国内の遠出旅行も復活してほしいが、それとは別に、旅行と日常の中間くらいの気軽さで気分転換ができて、お出かけよりももう少し特別なものとして、マイクロツーリズムは残ると思う」。
ウィズ・コロナやポスト・コロナでも地域の取り組み次第では新たな観光スタイルとして定着できるのか。マイクロツーリズムの今後にも目が離せない。
1) 令和4年版観光白書、pp72を参照。2021年度の国内観光の状況として「マイクロツーリズムが全国的に進展している」としながらも、「今後の動向は注視が必要」と指摘している。
2) アルベルゴ・ディフーゾ国際協会会長のジャンカルロ・ダッラーラ氏は2017年以降、何度も日本を訪れ、国内各地の取り組みを視察したり講演活動をしたりしている。なお、参考文献として、山田耕生、藤井大介「イタリアのアルベルゴ・ディフーゾの現状と日本への応用に関する考察」(2018年12月,第33回日本観光研究学会全国大会学術論文集, pp317-320)などを参照