2024.05.22

自転車をテコに都市改造 専用走行空間を拡大し、車道削減――フランス・パリ、ボルドーの取り組み

Urban Remodeling through Bicycle Infrastructure ――Initiatives in Two French Metropolitan Areas: Paris and Bordeaux

立飛総合研究所(TRI) 理事 事務局長兼統括研究主幹

市川 嘉一ICHIKAWA Kaichi

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■自転車など「アクティブ・モード」が主流?

トラムの利用客数は年々増加している。2009年に約6,000万人だった年間利用客数は1億人強と71%も増えた。1日平均の利用客数は20万人を超す。しかし、メトロポールの責任者の口からは以下のような言葉が続いた。
「これだけ公共交通に多大な投資をしてきたことでボルドーの都市プロジェクトは紛れもない成功を収めたのだが、交通分担率の数字を見ると期待していたようには変わらなかった」

ボルドー都市圏の交通分担率の推移を見ると、クルマの分担率は1998年の64%から2021年には46%と23年間に18ポイント減少。その一方で公共交通は1998年には9%だったのが、2021年には13%と増えているものの、増加幅は4ポイントにとどまった(図表11)。フランスの地方都市の中で「住みたい都市」ランキングの上位に付けるなど移住人気が高く、都市圏の人口が増え続ける中、人口の伸びにトラムなど公共交通の整備が追い付かず、公共交通不便地域がなかなか減らないことが背景にあるようだ。

図表11 ボルドー都市圏の交通分担率(%)の推移
注)ボルドー・メトロポール資料から引用

そうした中で見逃せないのは自転車や徒歩の各分担率が増えていることである。自転車は1998年に3%、2009年に4%と低迷していたが、2021年には8%と増加のテンポを早めている。過去23年間の増加幅は5ポイントと公共交通を1ポイント上回った。徒歩も1998年に22%だったのが、2021年には30%と8ポイント増えた。自転車利用がこれだけ増えたのはトラム開業に伴い自転車道など自転車の走行空間の整備に力を入れていることが背景にあるようだ。
都市圏住民の14%がほぼ毎日、自転車を利用。通勤の22%は自転車で移動しているという。
「自転車などの『アクティブ・モード』12)が短・中距離ではクルマに代わる現実的な選択肢になったことが分かった。自転車などアクティブ・モードをもっと発展させる余地がある」と、メトロポールの責任者は話した。

自転車の通行量を測定する計測器。雨の中、自転車を走らせる市民も少なくない=2023年11月4日

第3次ボルドー都市圏自転車計画で掲げられた2030年の交通分担率の目標値を見ると、クルマは33%と1998年実績値よりも31ポイント減少。これに対し、公共交通は17%と同8ポイント増えるとしているが、自転車は公共交通を1ポイント上回る18%となると見込んでおり、1998年と比べた増加幅は15ポイントと他のモードよりも群を抜いて大きい。
メトロポールはボルドー市内の特定区間で自転車交通量を測定しているが、「今年(2023年)9月に過去最高の自転車交通量を記録した」。「コロナ禍が終息してからも自転車交通量は増えており、徐々に成果が現れている。分担率18%の実現も夢ではなくなってきた」という。「ボルドー都市圏内で走るクルマの約半分の移動距離は4km以内だから、これがすべて自転車に転換すれば、(18%は)達成可能だ」(後述する自転車利用促進の非営利団体「ヴェロ・シテ」(Vélo-Cité)のルドヴィク・フーシェ会長)との声もある。

先述の通り、ボルドー都市圏でも自転車の走行空間(公園内道路や共用可能なバスレーンなどを含む)の整備が進んでいる。総延長は2020年6月時点で1,449㎞だったのが、2023年6月時点には1,606㎞に増加。過去3年間に約150km増えた(10.8%増)。
種類別で最も多いのは最高時速を30㎞に制限する「ゾーン30区域」の557㎞(2023年6月時点、以下同じ)で全体の約35%。次いで多いのは帯状の路面表示の自転車レーン(自 転車通行帯)の348㎞(約22%)。自転車道の248km(約15%)がこれに次ぐ。

図表12 ヴェロエクスプレス・ネットワークの計画図
注)ボルドー・メトロポールの資料から引用

近年、目玉事業としてとりわけ力を注いでいるのが、略称「レーヴ」と呼ぶ「ヴェロエクスプレス・ネットワーク」(ReVE,Réseau Vélo Express)である(図表12)。日本語に訳すと、「高速自転車道ネットワーク」になろうか。主に日々の通勤用に供される自転車道を東西南北に整備するもので、「エクスプレス」と銘打つだけあって、時速18㎞のスピードで走行可能な路線網を目指している。
レーヴは全部で14ルート(11ルートは放射路線、3ルートは環状路線)あり、総延長は272kmに上る。
南北の距離は30km程度で、最も短いルートは約6km、最長ルートでは約33㎞に及ぶ(図表12)。現在、整備中だが、いくつかのルートで一部供用している。

トラムA線の線路と交差するヴェロエクスプレス11番ルート=2023年11月4日

利用者の快適性を高めるため、各ルートで余裕ある幅員を確保する。双方向2車線の幅員は最低4m、一方通行1車線の幅員は最低2mと設定している。また、交差部ではクルマよりも自転車の走行を優先させる。緑の党所属の現在のピエール・ユルミック市長(2020年に市長就任)が2022~2028年の任期期間中に計7,000万ユーロの事業費を予算化することを決めたという。

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