2025.05.08

公共交通インフラはもう必要ないのか ――遅れている「持続可能な移動」、イタリアに学ぶ「国が前に出ること」

The Public-transport Infrastructure for Sustainable Mobility ――A Turning Point, When the Nation Should Step Forward: Learning from Italy as “Slow indicator”

立飛総合研究所(TRI) 理事 統括研究主幹

市川 嘉一ICHIKAWA Kaichi

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■フィレンツェは路線網が拡大、大学病院・空港までの延伸や初の旧市街乗り入れ

イタリアの古都で中部トスカーナ州の州都であるフィレンツェ(人口約38万人)はイタリアの都市の中でも総合的な交通政策としてトラム建設に力を入れた初めての都市であり、現在ではトラムの路線網が急速に広がっている。ボローニャにとってはモデルになっている都市である。

フィレンツェの鉄道の玄関口、中央駅であるサンタ・マリア・ノヴェッラ(SMN)駅を降りると、芋虫のような愛嬌のある顔をした超低床型路面電車が5車体からなる全長30m強の車両をくねらせながら駅前を優雅に走る。

フィレンツェには現在、T1(1系統)とT2(2系統)の2路線がある。路線距離は計19.3㎞。このうち、T1路線はSMN駅と西側の郊外住宅都市スカンディッチ市を結ぶ路線として、2010年2月14日に開業した。フィレンツェのトラムとしては実に52年ぶりの復活だった8)

「フィレンツェへの贈り物」の意味を込めて、2010年2月14日のバレンタインデーの日に復活・開業したTI路線では開業当初から利便性の高いサービスを市民らに提供したことにより、公共交通の新たなニーズを着実に掘り起こし、運行ルート以外の地域の住民からも「うちにもトラムが欲しい」との声が広がった。

そして、T1路線は2018年7月16日にSMN駅前から市北東部にあるフィレンツェを代表する大規模病院でフィレンツェ大学医学部の附属病院でもあるカレージ病院まで延伸した。

一方、中心部と空港を結ぶT2路線は2015年4月に着工、2019年2月11日に開業した。SMN駅から南側の旧市街寄りにあるウニタ(=イタリア統一)広場を起点にピサ方面に向かう幹線鉄道の下を潜り、北西部にあるペレトーラ空港に向かう計5.3kmルートである(現在、ウニタ広場の電停は使われておらず、南側の起終点は後述するサン・マルコ広場になっている)。

フィレンツェ市旧市街のサン・マルコ広場まで延伸したトラムT2路線。写真右がサン・マルコ修道院(2025年3月7日、筆者撮影)

T2路線をめぐる最近の動きとして注目されるのは、T1路線の電停であるフォルテッツァ(Fortezza)から枝分かれする形で、有名なフラ・アンジェリコのフレスコ画「受胎告知」で知られるサン・マルコ修道院が目の前にあり、ミケランジェロの「ダヴィデ像」で有名なアカデミア美術館など他の観光スポットも近くにあるサン・マルコ広場に向かう延伸ルート(通称、VICS)9)が今年(2025年)1月25日に開業したことである。路線距離は2.5㎞である。復活したとはいえ、フィレンツェのトラムはそれまでの2つの路線とも郊外へ向かっており、この延伸により、初めて、旧市街(Centro Storico)を走るルートが生まれたのである。

8) フィレンツェのトラムはいったん1958年1月20日に廃止された。

9) VICSはVariante Alternativo al Centro Storicoの略。歴史的都心地区へのアクセスにおける(クルマに代わる)もう一つの変更を意味する。

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