2025.05.08

公共交通インフラはもう必要ないのか ――遅れている「持続可能な移動」、イタリアに学ぶ「国が前に出ること」

The Public-transport Infrastructure for Sustainable Mobility ――A Turning Point, When the Nation Should Step Forward: Learning from Italy as “Slow indicator”

立飛総合研究所(TRI) 理事 統括研究主幹

市川 嘉一ICHIKAWA Kaichi

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■さらに2路線新設と延伸の動きも急展開、最終的に4路線・52kmのネットワーク構築

フィレンツェではこのほか、さらに3つ以上の路線新設・延伸の動きも急展開している。1つはサン・マルコ広場に向かう途中のリベルタ広場(Piazza della Libertà)から2つのルート(南東の郊外住宅都市バンニョ・ア・リポリBagno a Ripoli行きと、FSの鉄道駅がある東郊のロヴェツァーノRovezzano行き)に枝分かれして東側方向に向かうT3路線(各路線距離は7.2㎞、6.2km)で、サン・マルコ広場までの延伸開業と同じ1月25日に着工した。

2つ目はSMN駅前からT1路線を西側終点のスカンディッチ(Scandicci)方面に進んで最初の電停、プラート門・レオポルダ(Porta a Prato /Leopolda)から分岐し、北西地域のレ・ピアージェ(Le Piagge)に向かうT4路線の新設で、路線距離は6.2キロ。このT4路線は電停のプラート門近くにあるイタリア鉄道(FS)のレオポルダ駅から、カッシーネ(Cascine)地区やバルコ(Barco)地区などを通り、ピサ方面に向かうFSのローカル線(「カッシーネ・レオポルダ線」)に4km区間乗り入れるルートである。既に2011年にFSとフィレンツェ市との間でプロジェクトの実行で基本同意している。

T3路線に投入予定の日立レール(旧アンサルド・ブレダ社)製の新型車両(写真はイメージ図)

このほか、T2路線の延伸として、ペレトーラ空港から北部方面の住宅都市セスト・フィオレンティーノ(Sesto Fiorentino)に向かう7.4キロの路線や、レ・ピアージェからさらに北西方向に位置する大学の研究施設がある郊外都市カンピ・ビセンツィオ(Campi Bisenzio)に向かうT4路線の5.4キロ延伸も計画している。

図表3 フィレンツェのトラム路線図(計画路線を含む)

フィレンツェのトラムは最終的に4路線、計51.7㎞のネットワークが計画されている。総事業費は170億ユーロ、年間の利用客数は8,500万人を見込んでいる。フィレンツェ市(37万8,000人)を中心に計5都市(=コムーネ)からなる沿線地域の人口は計54万4,000人。単純に計算すると、住民1人当たり2、3日に1回は乗車することになる。

フィレンツェ市もボローニャよりもかなり前の2010年にPUMS(持続可能な移動に関する都市計画)を策定。2017年に国のインフラ・交通省が都市圏自治体によるPUMS作成のガイドラインを定めた2017年通達に伴い、計画を改定している。主な内容はトラムなど公共交通インフラの整備、ローカル鉄道やトラム、バス、自転車、マイカーなど各モード間の乗り継ぎ拠点整備、統合的なチケット発券システム構築、ファーストマイル・ラストマイルのためのシェアリングモビリティ・自転車・歩行サービスの構築などである。2010年のT1路線の開業からすでに15年が経過するなど時間はかかってはいるが、PUMSに盛り込まれた計画内容は着実に実行に移されてきた。「フィレンツェは他のモードとの乗り継ぎや移動環境を考慮してトラムを建設したイタリアで最初の都市」と、2008年以降、同市のトラム建設事業を統括してきた同市トラムシステム部長のミケーレ・プリオーニ氏は話す10))。

最終的な事業費(見込み額)である170億ユーロは日本円(1ユーロ=160円)に換算すると、2兆7,200億円になる。これだけの規模のカネを中核都市とはいえ、一つの都市のトラム建設事業に投じるというのは、運行事業の目先の採算性を重視し過ぎる日本から見ると考えにくいだろう。

それを可能にしているのが、充実した公的資金の投入なのである。先ほどの路線の新設・延伸でも国やEUの補助金が大きな後押しになっている。T3路線のリベルタ~バンニョ・ア・リポリ区間では建設費3億8,056万ユーロ(約608億円)のうち、EUの補助金の割合は39.4%、国の補助金は13.3%で、合わせると半分強(52.7%)に上る。このほか、トスカーナ州が21.0%、運行会社(第3セクター会社のGEST)が17.9%で、フィレンツェ市の負担額は7.6%と1割にも満たない。

逆に、T4路線のレオポルダ~ピアージェ区間では建設費(2億2,969万ユーロ)のうち、国の補助金が占める割合が86.8%と圧倒的に多い。イタリア鉄道インフラ保有会社(RFI)の負担金は10.1%で、フィレンツェ市の負担額は3.1%に過ぎない。

フィレンツェ市トラム・システム部長のミケーレ・プリオーレ部長(右)と筆者(2025年3月7日、同部のオフィスがあるレオポルダ駅近くの市分庁舎で)

10) 2025年3月7日にインタビュー取材。

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