2021.01.08

コロナは都市をどう変えるか ――パンデミックの歴史に学ぶ

How Coronavirus Will Change Cities, Lessons from the History of Pandemics

立飛総合研究所(TRI) 理事 事務局長兼統括研究主幹

市川 嘉一Kaichi ICHIKAWA

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■進むか郊外への人口分散、大都市のタワマンに歯止め?

こうした在宅勤務の浸透を背景に、職住一体型の生活スタイルが大きな潮流になり、大都市から郊外や田舎に移り住む人が増え、東京への人口一極集中から地方分散へと流れが変わり始めるのか。
また、これまで職住近接として都心の職場に通いやすいタワーマンションなどに住むことが一種の流行になっているが、在宅勤務がより一層定着し、人々の価値観が変わっていけば、そうした流れに歯止めがかかるのだろうか。反対に、比較的広い間取りの郊外一戸建てのニーズが再び高まる可能性が出てくるのだろうか。
新聞などメディアにはそれを期待するような論調の記事も増えてきているが、今のところ見極めはまだつかないように思う。

■「多様性」への支持が大都市の行方を左右

ただ、今後の人口流動の行方を探る際にヒントとなりそうなキーワードの1つが「大都市の持つ多様性」ではないだろうか。
ジョンソン氏は著書の中でこう述べている。

「デジタル・ネットワークはこれまで、都市の魅力を減少させるものだと思われてきた。いつでもどこでも連絡をとることが可能になり、在宅勤務の労働形態が増えると、人の密集した都会など城壁に囲まれた中世都市とおなじように時代遅れになると考えられてきたのだ。自宅で仕事ができるというのに、なぜ、ごみごみとした都会に出て行かなければならないのだ、と。ところが実際には、多くの人があえてごみごみとした都会に出かけていくことを望んだ。理由は単純、都会にはウィーン風パン屋やアート系映画館などの多様性があるからだ。」

こうした多様性は、ジョンソン氏も著書の中で指摘しているように、米国の在野の都市研究家ジェイン・ジェイコブズ(1916~2006年)がかつて都市の魅力を高める重要な要素として強調してきたものだ。ウィーン風パン屋やアート系映画館の件は、今や現代都市論の古典とも言える彼女の代表作『アメリカ大都市の死と生』7)の中に出てくる一節だ。少し長くなるが、引用したい。

図表14 大都市の持つ多様性について論じたジェイン・ジェイコブズの代表作『アメリカ大都市の死と生』

「たとえば町や郊外といった規模の地域には……巨大なスーパーマーケットはあっても食料雑貨店はなく、画一的な映画館やドライブイン・シアターはあっても劇場はない。それ以上の多様性を支えるほどの人口はおらず、たとえ興味をもつ人がいても数が少なすぎて成り立たない。一方、都市は、標準的なスーパーマーケットと映画館以外に、デリカテッセンやウィーン風のパン屋、輸入食料店、アート系映画館などがあり、標準と特殊が、大と小が共存している。そして都市の活気ある場所は、人気ある場所はどこも、大より小が数の上で勝っている。」

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